星天qlayとは

2023.12.24

【星天qlayラボvol.3】変化を楽しむクリエイターが まちを動かす!? 〜垣根を超えて試行錯誤し続けるコミュニティとは〜

「生きかたを、遊ぶ」をコンセプトに掲げる高架下施設・星天qlay(ホシテンクレイ)。暮らしや消費、学び、働き方、コミュニケーションなど、多様な切り口から「生きかたを、遊ぶ」という問いを探究し、施設やエリアを面白く捉え直すイベントとして、「星天qlayラボ」を不定期開催しています。

今回は、10月18日(水)に行われた星天qlayラボvol.3「変化を楽しむクリエイターが まちを動かす!? 〜垣根を超えて試行錯誤し続けるコミュニティとは〜」の様子をレポートします。

 

星天qlayラボ@PILE!

星天qlayラボvol.3は、ゲストトークとワークショップの2部制で行われ、第一部のゲストトークは現地会場とオンラインでのハイブリッド開催となりました。現地会場は、星天qlayのDゾーンにあるクリエイター向け協働制作スタジオ「PILE」を使用させていただきました。

19:30になると、イベントがスタート。ファシリテーターを務めるYADOKARI株式会社の山下さん、木村さんから、今回のイベントの概要と、星天qlayについて説明が行われました。山下さんからは、今回のイベントのキーワードでもある、「クリエイター」という言葉についても説明が。

山下さん「クリエイターと聞くと、創作活動をしているアーティストやデザイナーなどをイメージする方が多いと思いますが、星天qlayでは、自分の好奇心や偶然の出会いを大切に、常識にとらわれない新しい価値観を持って、変化を楽しむ人たちをクリエイターと捉えています。本日はクリエイターという言葉を解きほぐしながら、コミュニティが育つ場づくりを行うお二人にお話を伺っていきます。」

 

ゲストトーク➀ 津田賀央さん

第一部のゲストトークは、Route Design合同会社代表・津田賀央さんのお話からスタート。Route Design合同会社は、今回のイベント会場でもある「PILE」と、長野県諏訪郡富士見町にある「富士見 森のオフィス」という2つのコワーキングスペースを運営しています。

2015年にオープンした富士見森のオフィスは、町の人口減少に対し、仕事と共に移動することができるリモートワーカーの移住を促進する場として、富士見町行政と共に立ち上げた施設です。「慣習や常識に囚われることなく、個々が望む生き方を追求できる世界を実現する」ことをビジョンとし、個の時代における新しい働き方・生き方をコワーキングスペースという形で体現しています。

富士見森のオフィスの様子(津田さんのスライドより)

コワーキングスペースの登録者数は、なんと1200人以上。富士見町では、移住をするにあたって、森のオフィスで相談をしたり友達を作ったりして、少しずつまちに馴染んでいく流れができているんだとか。そんな森のオフィスの特徴が、「プロジェクトがどんどん生まれること」。森のオフィスを通して繋がった人たちによって、大小さまざまな160以上のプロジェクトが誕生したそうです。

「人と人との繋がりを通じて何かが生まれていく。そういった場になっていることに、僕自身も面白さを感じています」と語る津田さん。こういった森のオフィスで起きた現象が、地方でしかなしえないことなのか、はたまた都心に近いエリアでも再現可能なのか。そんな問いを持って立ち上げたのが、星天qlayの「PILE」だといいます。

PILE内観

2023年4月に星天qlayDゾーンにオープンした「PILE」は、「新たな創造のための自由な共同空間」をコンセプトに掲げ、コラボラティブスタジオ(協働制作スタジオ)として運営されています。

PCを使ったデスクワークから、写真撮影、絵画や木工などのアナログ作業までをシームレスに行うことができるPILE。デザイナーやアーティストなどのプロフェッショナルから、アマチュア、ホビークリエイターまで、さまざまな人がデジタル・アナログを問わずにクリエイションを行うことができる場です。

津田さん「アーティストやデザイナーに限らず、試行錯誤して物事を頑張っている人だったら、誰もがクリエイターなんじゃないかと僕らは思っています。そしてクリエイターが良い試行錯誤をするためには、身体を動かす作業もできる場と、リラックスできる周辺環境、同僚が必要だと思ったんです。職場や地元では出会えない、自分とは違う分野で活動している人たちと出会い、刺激を受けることが、良い試行錯誤に繋がるんじゃないか。そんな思いを胸にPILEを運営しています。」

 

ゲストトーク➁ 加藤翼さん

続いてお話いただいたのは、加藤翼さん。株式会社ロフトワークでシニアディレクターとして勤める傍ら、2017年にご自身で立ち上げた株式会社qutoriの代表を務めています。2つの会社でさまざまな場づくりに関わりながら、「BUFF コミュニティマネージャーの学校」にて、コミュニティマネージャーの人材育成も行っています。

SHIBUYA QWS(加藤さんのスライドより)

現在加藤さんが主な拠点としているのが、渋谷スクランブルスクエア15階にある会員制の共創スペース「SHIBUYA QWS(シブヤキューズ)」。「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」をコンセプトに、多様な人々が交差・交流し、社会価値につながる種を生み出す会員制の施設です。

加藤さん「近年、世の中ではイノベーションが目的化されることが多くなっていますが、イノベーションの前提となる問いの定義が甘いのではないかというのを、メンバーでよく議論していました。SHIBUYA QWSは『問い』というものを突き詰めて、対話をする場所として提案した施設です。会員さんは、ユニークな企業やクリエイター、大学生や高校生、リタイヤした80代の方まで幅広く、渋谷の多様性を表すような場所になっています。」

その他にもさまざまな施設に関わる加藤さんですが、今回は初出し情報として、イベント2ヶ月前にオープンしたばかりのカフェギャラリー「muun」のお話を聞かせてくださいました。

muun外観(加藤さんのスライドより)

muunは、南麻布の元畳工場だったビルの一角をリノベーションして生まれた施設で、地域とクリエイションをつなぐ場として様々な企画が展開されています。

場のアイデアの出発点になったのは、日本語の文で歌のはじめなどに置かれる符号「〽(庵点・いおりてん)」。地域の人々もクリエイターも、どんな人も世代関係なく集まり、物語が始まる符号のような場所を作ろうというのが、muunの発想の原点だそうです。

加藤さんのスライドより

加藤さん「これまでいろいろな場を作ってきましたが、大企業の資本が入ると、リスクマネジメントや用途制約の観点から、クリエイティブが制限されてしまうこともありました。muunは『東京で最もクリエイターが表現しやすい場』をコンセプトに掲げ、お金がなくても、何かに挑戦したい人たちが自由に利用できる場にしようと、試行錯誤しながら自分たちの手で場を作りあげました。

muunでは、クリエイターとローカルが繋がることで思いやりの経済を回したいと思っています。東京では家賃がネックとなり物件を借りれない、新規出店ができないクリエイターが多いというのが現状です。muunでは、そういったクリエイターが小さく場を借りて出店・出展し、地域の方がお客さんとして足を運ぶことで、小さな思いやりの経済が回る場にしていきたいと思っています。」

 

トークセッション

津田さん、加藤さんからそれぞれの活動についてご紹介いただいた後は、ファシリテーターや参加者さんの質問をもとにより深くお二人の思考に迫る、トークセッションを行いました。

コミュニティを生き物として捉えると?、施設を作るときに意識した、人との繋がりを加速する仕掛けは?、コミュニティを形成するうえで、場にないほうが良いと思うものは?、お二人が生きていくうえで大切にしている価値基準は?など興味深い質問が飛び交ったトークセッションの中から、特に印象深かったお話をピックアップしてお届けします。

津田さん「僕はコミュニティというのは、意図的に設計するというよりも、一つひとつの行動を積み重ねた結果、振り返ると自然に形成されているもののように感じています。例えるなら植物の群生のようなイメージで、植生を構成する一個体は変化しつつも群れとして生きており、環境に適応しながら広がっていく。コワーキングスペースも同様に、利用者が入れ替わりつつも、影響を受けた人々が新たな形で場を使い続け、コミュニティが変化していく。植物の群生のようだなと、日々観察しながら思っています。」

加藤さん「コミュニティって、ピカピカで綺麗な場所には根付かないと思うんです。これまでに使ってきた人、これから使う人の歴史と記憶がコミュニティを強化していくところがあると思うので、手垢が残っているというのがすごく大事だし、ある程度ルールの余白を設けたほうが良いと思っています。クリエイターの思考やプロトタイプ中間物が途切れてしまうのはもったいなくて、それが残ってることで他の人に刺激を与えたり、何かに繋がることもあるので、必ず机の上を綺麗にしたり、ホワイトボードを絶対消すルールなどは、ない方が良いと感じています。」

現地参加の方からは、「生きていくうえで、大切にしている価値基準はありますか?」というお二人の内側に迫る質問が飛び出す場面もありました。加藤さんからは「好奇心、自分の知らない世界と出会うことが何よりも楽しい」、津田さんからは「複数の価値観の間を行き来すること、コンフォートゾーンを抜け出して挑戦すること」という答えがあり、お二人自身が、変化を楽しみ、試行錯誤を楽しむクリエイターであることを改めて感じらえるトークセッションとなりました。

 

ワークショップ”勝手にクリエイション”

第二部は、PILEの作業台を使い、”勝手にクリエイション”と題したワークショップを行いました。最初に書いてもらった自己紹介カードの裏には、実は数字が書かれており、同じ数字の人とペアになって、作業台を挟んで向かい合います。

絵の具やクレヨンなどPILEにある画材を使ったワークショップで、参加者の方は今の気持ちや好きなものを、ペアの方とシェアした画用紙の上に表現しました。時間が経つにつれ、文字禁止、利き手の使用禁止、片目を瞑る、両眼を瞑るなどどんどんルールが追加。「どうやって書いたら良いの!?」と声をあげつつ、試行錯誤しながら手を動かしていきます。

時間になると、画用紙を180度回転。対面にいるペアに自分の絵を見せます。その絵を見ながら、ぺアの相手の偏愛を勝手に妄想して、絵の横に書いてみます。こんなものが好きだろう、こんな時間の過ごし方が好きだろう……。など、どんな偏愛でもOK。初めましての方の絵を見ながら、妄想を膨らませます。

時間になったら画用紙の向きを戻し、お互いに1分間の自己紹介タイム。妄想の答え合わせをかねての自己紹介となり、「絵のこの部分はそういうことを表してたんですね」、「そのお仕事をこの部分で表現してたんですか?」など、会話に花が咲いていました。

手作業が可能なPILEだからこそできるワークショップで、「何十年ぶりにクレヨンを持ったからすごく楽しかった」、「何を書いたら良いか悩む感じが良かった」と、参加者の方は試行錯誤しながらのクリエイションを楽しんでくださったようでした。

イベント終了後は交流会が行われ、他のペアの絵について話したり、津田さんや加藤さんと直接お話したりと、皆さん時間の許す限り、秋の夜長を楽しんでいました。

 

クリエイションの積み重ねが、まちをおもしろくする

試行錯誤を続けながら場づくりを行う2人のお話を聞き、自分自身でも実際にクリエイションを行った星天qlayラボvol.3。変化を楽しむ人たちによる小さなクリエイションが積み重なり、星天というまちがもっともっとおもしろくなる未来を予感させる、そんな一夜となりました。

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