星天qlayとは

2023.10.24

横浜の地で、「共に働く」カルチャーを創る/クリエイター向け協働制作スタジオ「PILE」

星天qlay・Dゾーン(天王町駅西側エリア)の中心部にある、クリエイター向け協働制作スタジオ「PILE(パイル)」。「新たな創造のための、自由な協働空間」をコンセプトに掲げ、PC作業などのデスクワークから、ペインティングや工作などアナログな作業も可能なワークスペースです。

今回は、PILEを運営しているRoute Design合同会社の代表で、横浜市出身でもある津田賀央さんに、PILEを創った想い、そしてこの場所で目指すものについてお話を伺いました。

コワーキングスペースは、人と人の繋がりを育む場所

PILE入口

PILEを語るうえで欠かすことのできない場所が、「富士見 森のオフィス(以下、森のオフィス)」です。Route Design合同会社が2015年に長野県諏訪郡富士見町にオープンしたコワーキングスペースで、利用登録者数はなんと1200人以上。人と人との繋がりによって、これまでに160以上の仕事やプロジェクトが生まれています。

津田さん「僕はコワーキングスペースというのは、場所やビジネスの話ではなく、『共に働く』というカルチャーのことだと思っています。人と人の繋がりを育むことがコワーキングスペースという場の役割であり、そうした繋がりが大きくなって”Social capital(社会関係資本)”が醸成されると、そこに集う人々のなかから新たなプロジェクトやビジネスが生まれていく。僕たちはそこに投資をしているという感覚で、いわば人への投資ビジネスだと思っています。

とはいえコワーキングスペースは軌道に乗るまで時間がかかることもあり、初めに星天qlayへ出店のお話をいただいた時は断ろうと思っていたんです。ですが出身地である横浜で何かをしたいという思いはずっとあったし、『森のオフィスのようなコミュニティのあり方を都心でも再現可能なのか』という自分のなかに芽生えていた問いに答えることにもなると思い、出店を決めました。

事業として適切かどうかは分かりませんが、PILEは僕の作品でもあると思っています。作品といっても完成形ではなく、スタッフや会員さんをはじめとしたいろいろな方が入ってくることによって、PILEという箱が変化する様を楽しみたいです。」

PILEのコンセプトには、横浜で過ごした青春時代が影響していると語る津田さん。PILEという名前は、20代の頃に友人と組んでいたVJチーム(※)の名前「PILE」のオマージュなんだとか。「再び横浜で何かをするなら、クラブシーン、クリエイティブの分野に繋がることをやりたい」という思いから、”クリエイションに関することなら何でもあり”なPILEのコンセプトができたそうです。

※VJ:ビデオジョッキー、ビジュアルジョッキーの略称。ライブでDJの作り出す音やフロアの雰囲気に合わせ、映像表現・演出を行うクリエイター

 

「繋がり」を生むさまざまな仕掛け

PILE内観

「人と人との繋がり」を大切にしているPILEでは、スタッフの方々は受付カウンター外にあるダイニングテーブルに座っており、会員さんとの自然なコミュニケーションが生まれています。仕切りがないワンフロアのため、他の人の創作活動を見て刺激をもらえるのも特徴です。

津田さん「日本のコワーキングスペースは、綺麗で、スペースが仕切られていて、個々がパソコン持ってきて作業するという形式が多いですよね。でも僕は、コワーキングスペースはもっと汚くて良いと思うんです。雑然としていて良いから、お互いの顔が見えて、繋がりやすい場をつくれたらと思っています。

ハードウェアに関しては、会員さんによって編み出されるであろう様々な利用方法に対応できるよう、レイアウトの変更のしやすさを意識しました。家具そのものを軽く作り、一部の家具にはキャスターやタイヤが付いています。」

星天qlay Dゾーンオープニングイベント当日の様子

森のオフィスで培ってきたことを活かし、「繋がり」を生むための仕掛けが随所に散りばめられているPILE。オープンから約4ヶ月が経ち、PILEが目指すものの片鱗が少しずつ見えてきているそうです。

津田さん「長年横浜を拠点に制作活動をしてきたある会員の方が、『家では自分の創作活動に限界があったけれど、PILEに来るようになってリミットが外れ、もっと学んでみよう、新しいものにチャレンジしてみようと積極的に動けるようになった』とおっしゃっていました。またあるお母さんは、お子様とオープンデイに通ううちに、会員さんやスタッフに魅力を感じ、『家でも作業はできるけど、ここだったらいろいろな繋がりができそう』と会員になってくれました。

運営スタッフもそれぞれが個性的かつ魅力的で、スタッフが制作した映画を流したり、イベントを企画したりしています。始まったばかりで道半ばではありますが、スタッフと会員さんが刺激し合って、協働し、共創する。そういった理想の片鱗が少しずつ見えてきているなと嬉しく思っています。」

 

PILEをレーベルに

星天qlay内や周辺地域の方々とも積極的に交流し、会員以外も参加可能なイベント・ワークショップを開催しているのもPILEの魅力。Bゾーンのテナントである無印良品500、Reconnelとコラボレーションイベントや、ゲストアーティストと共に灯籠アートを制作するワークショップなど、星天qlayに愛着を持ちまた足を運びたくなるようなイベントが企画されています。

さらに9月からは、新人クリエイターサポートプログラム「PUSH FOR CREATION(以下、P4C)」がスタート。創作活動を始めたい人、今の仕事を続けながら創作活動をしたい人、30代40代でキャリアチェンジしたい人などを応援する機能として企画されたプロジェクトです。多数の応募の中から選出された4名(写真2名、グラフィックデザイン2名)のアーティストに3ヶ月間PILEのスペースを無料解放し、11月にはPILEをはじめ、星川駅、天王町駅、星天qlayのDゾーンにて作品を展示をする予定です。

クリエイター向け協働制作スタジオとしてさまざまな企画を行うなか、津田さんにはこんな野望があるそうです。

津田さん「いずれはコワーキングスペースの枠を超えて、PILEをレーベルにしたいという野望があります。多様なアーティストを抱え、コレクティブでもあり、音楽以外のものも発信するインディーズ音楽レーベルがとても好きで。PILEは制作する場所ではあるけれど、いつか海外のバイヤーが足を運ぶようなアートの見本市などにレーベルとして出展して、会員さんの作品を発信・販売などできたら面白いなと思っています。そのためには制作環境をもっと良くして、アートファブリケーションの分野も強化していきたいです。」

 

「生きかたを、遊ぶ」とは、試行錯誤し続けること

最後に、津田さんにとっての「生きかたを、遊ぶ」とは何か、そしてこれからPILEを利用してくださる方々に向けてメッセージを頂きました。

津田さん「『生きかたを、遊ぶ』とは、誰かと一緒に試行錯誤し続けることではないかと思います。生きるって1人ではできなくて、他人との関わりが生きかたをおもしろくすると思うんです。どこかで見たような『これが正しい生き方だ』という既成概念を外して、試行錯誤し続ける。やめない限り失敗ではないので、『これは上手くいかなかったな』、『試しにやってみたら予想外の結果になったぞ』という試行錯誤のプロセスそのものを楽しむことが、『生きかたを、遊ぶ』ではないでしょうか。

PILEは単なる作業場としてではなく、やりたいことを試してみる場として使ってもらえたらと思っています。人と同じ空間で作業をし、互いに刺激を受けることで、自分の能力や経験値、思いがけぬ可能性を広げる場となったら嬉しいです。」

PILEという装置を起点に、「共に働く」人々が繋がり、新しい何かを生み出していく。いつか星天qlay発のレーベルが誕生する日も夢見ながら、この場所で起こるさまざまな変化を、皆さんも一緒に楽しんでいきたいですね。

取材/橋本彩香・山下里緒奈
文/橋本彩香

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